読書の記録『半島を出よ(下)』

トップ > 読書 > 読書の記録『半島を出よ(下)』

読書の記録


半島を出よ(下)

村上龍, , 2006-01-07, ***--

「あれを倒すのは、簡単じゃないけど不可能じゃない」
共有感覚のエキスというのはどこかにふわふわと浮かんでいるんだ。イシハラはそう言った。それはとても弱々しくて、とても頼りなくて、とても曖昧なものなんだ。(中略)みんな一緒だと思い込むことでも、同じ行動をとることでもない。手をつなぎあうことでもない。それは弱々しくて頼りなく曖昧で今にも消えそうな光を、誰かとともに見つめることなのだ。
良い詩を書けるのは、自分の心の闇を見つめることができる人だ。強く美しいだけでは良い詩とは言えない。
失望は、期待がなければ発生しない。
統治や政治というものは、力の弱い少数者を犠牲にする装置を最初から内包しているのだ。集団や軍の均衡がとれている間、その装置は穏やかで目立たない。だが危機に際して装置は稼動し、必ず少数者が犠牲になり、少数者に組み入れられることを誰もが忌避しようとして、その瞬間隠蔽されていた退廃が露になる。
従順さは素直に映るときがあるし、高圧的な態度は毅然として男らしく見える場合もある。外部への不信と嫌悪は忠誠と団結を示すこともある。
恐怖を自覚するのと、気づかないふりをしてごまかすのでは対処の仕方が違う。恐怖とその対象を認めなければ、恐怖に対応できないのだ。